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この記事は、改訂&リニューアルして『P はプロトコルのP - HSRP を究める』へ移転しました。

HSRP を究める - 応用編(3) IP の経路情報 をトラッキングする(1)

これまで見てきたトラッキングはすべて、インターフェイスのアップ・ダウンを対象としたものでした。
ルータ単体(自分自身)の状況を監視していたわけです。

他のルータの状況をトラッキングして、HSRP のState に反映させられれば、より柔軟な運用ができます。

Object Tracking では、特定の経路情報への到達性(Reachability) を対象にトラッキングを行うこともできます。

この機能を利用し、特定のルータのLoopback Interface をトラッキングします。

このページでは次のようなネットワークを使います。

※ この例で使うネットワークは、機能を理解するために簡略化しています。
必ずしも最適な構成ではないことをご了承下さい。


本ページでは、Debug コマンドを使用します。
本ページの内容を実際に試される場合は、事前に「Debug コマンドについて」をお読みください。

※ これまでに設定したObject Tracking の設定は削除しておいてください。

Router-A とB の間でStandby Group 10 を作成して、PC-1 にデフォルトゲートウェイを提供しています。

全てが正常に動作しているとき、Router-A がActive Router、Router-B がStandby Router になっています。

Router-C とD は、インターネットへの出口になっており、それぞれ別なISP に接続しています。
すべてが正常に動作しているとき、Router-A が中継するデータはRouter-C を経由して、Router-B が中継するデータはRouter-D を経由してインターネットへ向け送信されます。
Router-C が使用不可となると、Router-A のルーティングテーブル上で、インターネット宛のNext Hop は、Router-B のEthernet0/0(192.168.1.101) に切替わります。

それまでのPC1 --> Router-A --> Router-C --> Internet という流れが、PC-1 --> Router-A --> Router-B --> Router-D --> Internet となります。

通信は継続できますが、Standby Group 10のActive Router はRouter-A のままです。

Active Router がRouter-B に切替われば、余計なHop(Router-A) が介在することなくInternet への接続性を確保できます。




Router-A#conf t
Enter configuration commands, one per line. End with CNTL/Z.
Router-A(config)#track 1 ip route 1.1.1.3/32 reachability@
Router-A(config-track)#exit
Router-A(config)#track timer ip route 1A
Router-A(config)#interface ethernet 0/0
Router-A(config-if)#standby 10 track 1 decrement 10B
Router-A(config-if)#

@ トラッキング対象として、Router-E のLoopback 0(1.1.1.3/32) への到達性を指定しています。
到達性の有無は、Ping などによる診断ではなく、ルーティングテーブル上のエントリの有無で確認します。

A ルーティングテーブルを確認する間隔を1秒に指定します。デフォルトは15秒です。

B Object 1 がダウンしたら(1.1.1.3/32 がルーティングテーブルから消えたら)、Standby Group 10 のプライオリティを10下げるよう、指定します。

では、実験を始めましょう。

その前に一つ。
今回は、他のルータの状況変化に連動して、HSRP のプライオリティを変化させます。
Router-A のコンソールでは状況を把握しにくいので、debug track を実行しておきましょう。

Debug コマンドについて」をお読みください。



Router-A#
Router-A#debug track
Router-A#


Router-A のルーティングテーブルを確認します。



Router-A#show ip route
Codes: C - connected, S - static, R - RIP, M - mobile, B - BGP
D - EIGRP, EX - EIGRP external, O - OSPF, IA - OSPF inter area
N1 - OSPF NSSA external type 1, N2 - OSPF NSSA external type 2
E1 - OSPF external type 1, E2 - OSPF external type 2
i - IS-IS, su - IS-IS summary, L1 - IS-IS level-1, L2 - IS-IS level-2
ia - IS-IS inter area, * - candidate default, U - per-user static route
o - ODR, P - periodic downloaded static route

Gateway of last resort is not set

1.0.0.0/32 is subnetted, 7 subnets
C 1.1.1.1 is directly connected, Loopback0
O 1.1.1.3 [110/11] via 192.168.2.102, 00:00:07, Ethernet0/1
O 1.1.1.2 [110/11] via 192.168.1.101, 00:00:07, Ethernet0/0
O 1.1.1.5 [110/51] via 192.168.1.101, 00:00:07, Ethernet0/0
O 1.1.1.4 [110/21] via 192.168.1.101, 00:00:07, Ethernet0/0
O 192.168.4.0/24 [110/20] via 192.168.2.102, 00:00:07, Ethernet0/1
O 192.168.5.0/24 [110/30] via 192.168.1.101, 00:00:07, Ethernet0/0
C 192.168.1.0/24 is directly connected, Ethernet0/0
C 192.168.2.0/24 is directly connected, Ethernet0/1
O 192.168.3.0/24 [110/20] via 192.168.1.101, 00:00:08, Ethernet0/0
Router-A#

Router-C のLoopback0(1.1.1.5/32) は、ルーティングテーブルへ載っています。


では、Router-C で障害を発生させてみましょう。

今回は、Router-C でIP ルーティングを無効にしてみます。
(電源オフでも、Loopback0 のIP アドレスを削除するのでも良いです)



Router-C#conf t
Enter configuration commands, one per line. End with CNTL/Z.
Router-C(config)#no ip routing
Router-C(config)#

※ OSPF のネイバーがダウンしたりと、メッセージが表示されますが、とりあえず流してください。

Router-A のコンソールです。



Router-A#
*Feb 11 12:44:32.361: Track: 1 Change #14 IP route 1.1.1.5/32, OSPF->no route, reachability Up->Down@
Router-A#
*Feb 11 12:44:33.593: %HSRP-6-STATECHANGE: Ethernet0/0 Grp 10 state Active -> SpeakA
Router-A#
*Feb 11 12:44:43.593: %HSRP-6-STATECHANGE: Ethernet0/0 Grp 10 state Speak -> StandbyB
Router-A#
Router-A#show ip routeC
Codes: C - connected, S - static, R - RIP, M - mobile, B - BGP
D - EIGRP, EX - EIGRP external, O - OSPF, IA - OSPF inter area
N1 - OSPF NSSA external type 1, N2 - OSPF NSSA external type 2
E1 - OSPF external type 1, E2 - OSPF external type 2
i - IS-IS, su - IS-IS summary, L1 - IS-IS level-1, L2 - IS-IS level-2
ia - IS-IS inter area, * - candidate default, U - per-user static route
o - ODR, P - periodic downloaded static route

Gateway of last resort is not set

1.0.0.0/32 is subnetted, 6 subnets
C 1.1.1.1 is directly connected, Loopback0
O 1.1.1.3 [110/11] via 192.168.2.102, 00:02:20, Ethernet0/1
O 1.1.1.2 [110/11] via 192.168.1.101, 00:02:20, Ethernet0/0
O 1.1.1.4 [110/21] via 192.168.1.101, 00:02:20, Ethernet0/0
O 192.168.4.0/24 [110/20] via 192.168.2.102, 00:02:20, Ethernet0/1
O 192.168.5.0/24 [110/30] via 192.168.1.101, 00:02:20, Ethernet0/0
C 192.168.1.0/24 is directly connected, Ethernet0/0
C 192.168.2.0/24 is directly connected, Ethernet0/1
O 192.168.3.0/24 [110/20] via 192.168.1.101, 00:02:22, Ethernet0/0
Router-A#

@ 1.1.1.5/32 へのReachability が失われたことを受けて、Track 1 をダウンさせました。

A Track 1 がダウンしたことを受けて、Standby Group のプライオリティが10 下げられ、90になります。Router-B からプライオリティが95 のHello メッセージを受け取り、Active Router を辞めます。

B Standby Router になりました。

C Router-A のルーティングテーブルを確認すると、1.1.1.5/32 が無くなっているのがわかります。


対象はLoopback インターフェイスだけに限りません。
上の例で、ISP-1 からしか受け取らない経路情報があるのであれば、それをTrack することでもActive Router の切り替えを行うこともできます。



HSRP を究める (1) はじめに
HSRP を究める (2) バーチャルルータ
HSRP を究める (3) バーチャルルターのアドレス
HSRP を究める (4) Hello の交換
HSRP を究める (5) HSRP のパケットフォーマット
HSRP を究める (6) HSRP メッセージの種類
HSRP を究める (7) HSRP のTimer
HSRP を究める (8) HSRP ステート(State)
HSRP を究める (9) Gratuitous ARP
HSRP を究める(10) Preempt
HSRP を究める(11) Standby Delay コマンド
HSRP を究める(12) Interface Tracking
HSRP を究める(13) BIA (Burnt In Address)
HSRP を究める(14) Authentication
HSRP を究める(15) ICMP Redirect
HSRP を究める(16) ICMP Redirect との協調動作

HSRP を究める - 実践編(1) HSRP を設定する前の状況を確認する
HSRP を究める - 実践編(2) Standby Group をつくる
HSRP を究める - 実践編(3) Active Router に障害を発生させてみる(1)
HSRP を究める - 実践編 (4) Preempt とプライオリティを設定する
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HSRP を究める - 応用編(1) 複数のインターフェイスをトラッキングする(1)
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HSRP を究める - 応用編(7) HSRP version 2
HSRP を究める - 応用編(8) HSRP version 2 のパケットフォーマット
HSRP を究める - 応用編(9) HSRP version 2 (2)


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